CD「オーケストラ・トリプティークによる芥川也寸志個展」
芥川也寸志の全弦楽作品を収録した決定版!
日本の弦楽オーケストラ作品の中でも、武満徹と並んで上演回数の多い芥川也寸志の「トリプティーク」。
芥川の最高傑作とも呼び声の高い。その「トリプティーク」だけでなく、
幻の作品「絃楽オーケストラのための陰画」、清道洋一編曲によるNHK大河ドラマ「赤穂浪士のテーマ」や映画「ゼロの焦点」「鬼畜」「譚詩曲」「24の前奏曲」などオーケストラ・トリプティークによる芥川也寸志作品集。
名演との評判も高かった2016年のコンサートをついに発売!
品名:CD「オーケストラ・トリプティークによる芥川也寸志個展」水戸博之指揮
帯:芥川也寸志の全弦楽作品を収録した決定版!
CD番号 3SCD 0044
バーコード 4560224350443
定価 3056円(税込)
発売:2019/05/22
企画:スリーシェルズ
解説:清道洋一
協力:芥川眞澄、吉原一憲
オーケストラ・トリプティークによる芥川也寸志個展
-芥川が絃楽へ寄せた想い-
収録曲目
①絃楽オーケストラのための陰画(1966)
②大河ドラマ『赤穂浪士』よりテーマ(1964)
③オペラ『暗い鏡』より「間奏曲」(1960)
④映画『鬼畜』 (松本清張原作、野村芳太郎監督)よりストリートオルガン(1978)
⑤映画『猫と庄造と二人のをんな』(谷崎潤一郎原作、豊田四郎監督)より(1956)
⑥映画『ゼロの焦点』(松本清張原作、野村芳太郎監督)より(1961)
⑦映画『破戒』(島崎藤村原作、市川崑監督)より(1962)
⑧-⑩絃楽のための三楽章(トリプティーク)(1953)
⑪譚詩曲(1951)
⑫-⑳『24の前奏曲』より(1979)
「ハ長調、イ長調、ト短調、ニ長調、ロ短調、変ホ短調、ヘ長調、ホ短調、変イ長調」
㉑秋田地方の子守歌(1977)
----ボーナストラック(2013年9月19日の浜離宮朝日ホールにおける第2回演奏会より)------
㉒ music for Strings #1 -盟友・武満徹に捧げる-
(陰画、トリプティーク、間奏曲、music for Strings #1 以外は清道洋一編曲)
水戸博之 指揮 オーケストラ・トリプティーク
1Vn 三宅政弘コンサートマスター
迫田圭、加藤美菜子、大杉那々子、千原徳子、原田真帆
2Vn 三瀬俊吾、内藤歌子、星野仁子、小澤麻里、阿曽璃子
Va 髙橋奨、伊藤美香、星光、米納真妃子
Vc 竹本聖子、任炅娥、渋井妙、加藤皓平
Kb 佐藤洋嗣、志水祐亮
企画構成 西耕一 編曲・曲解説 清道洋一 協力 吉原一憲 録音 上埜嘉雄
会場 2016年7月13日・渋谷区文化総合センター伝承ホール
(㉒のみ2013年浜離宮朝日ホール:録音シャッツグレーバー)
「芥川也寸志の全弦楽作品を収録した決定版!」
『芥川也寸志個展へ寄せて」 企画 西耕一
芥川也寸志にとって『絃楽のための三楽章(トリプティーク)』は重要な意味を持つ作品である。すぐれた音楽性、精緻な建築を思わせる構造と絶妙なバランス、音楽を愛し、人間たちを愛した芥川のあたたかな心も聴き取れる。
ニューヨーク・フィルによるアメリカ・カーネギーホールでの世界初演、アメリカ、ソヴィエト、中国など海外での演奏、楽譜出版など、日本の音楽界にとっても発表当時から重要な役割を果たしてきた作品である。
2012年から、オーケストラ・トリプティークという名前で、日本の作曲家による絃楽オーケストラのシリーズをスタートした私達にとっても、芥川也寸志という存在と、その作品は特別な意味を持っている。
2012年のスタート時、オーケストラの命名に一切迷いはなかった。私達、日本に住む音楽家が、日本の音楽史を切り拓いてきた先人の名作を演奏する。それも絃楽オーケストラによる作品を中心に。とすれば『トリプティーク』しかない。
これまでオーケストラ・トリプティークは、絃楽オーケストラ公演だけでなく、絃楽四重奏やフルオーケストラ、室内オーケストラなど様々な編成によるコンサートを行ってきた。いずれも「日本の作曲家のみ」。芥川の師匠にあたる伊福部昭の個展シリーズは、2014年からスタートしてこれまでに6回行った。
ギリギリの賭けでもあったが2015年は芥川也寸志生誕90年としてフルオーケストラによる個展を行った。
『KAPPA』『小管絃楽のための組曲』『赤穂浪士』『鬼畜』『八甲田山』『八つ墓村』『NHK-TV 放送開始と終了』など盛りだくさんで3時間近くかかるコンサートだった。楽譜の蒐集、浄書、楽器手配も大変な労力・時間・費用のかかることであったが、これまでに誰もやらなかった、しかし芥川ファンの多くが夢見ていたことができたと考えている。しかし、1回の演奏会では演奏しきれないほど多くの名曲を芥川也寸志は残してくれた。それが今回の企画の発端のひとつである。
日本人が日本の作品を演奏しないで誰がやるのか? これは私達がコンサート企画をするとき必ず考えること。その原点とも言えるのが、芥川也寸志と、彼が無給の指揮者として関わったアマチュアオーケストラの新交響楽団による「日本の交響作品展」である。名前の通り、日本の交響作品を特集する演奏会シリーズであった。プロでは経済的・集客的な理由などから成り立ちにくかった日本の作品による演奏会を続けた。
その第1回は1976年。その頃、日本のオーケストラ音楽の歴史がその第一歩から60年ほどの時間を経て、鬼籍に入った作曲家も増えてきた頃。ある意味では文化損失の危機にあった日本の作品の楽譜や音源のアーカイヴに繋がる活動となった。伊福部昭、諸井三郎、清瀬保二、安部幸明、菅原明朗など多くの作曲家が再評価のタイミングとなった。芥川と新交響楽団だけでないムーブメントとして、この頃に日本の作曲家への注目が大きく集まったことは特筆して良いことだろう。芥川の遺志はその後も受け継がれ、新交響楽団は創立60年を越えた。これだけの時間が経っているのだから、日本の作品を専門に演奏してゆく「プロオーケストラ」が出来てもおかしくないはず。オーケストラ・トリプティークは、誰かがやらねばいけないこと、このままでは知られずに埋もれてしまう日本の名作を再び演奏して、広く一般に知っていただくことを意図して活動している。
奇しくもオーケストラ・トリプティークの結成は、山田耕筰が日本人初のオーケストラ曲『序曲』を書いた1912年から100年となる2012年であった。第1回目の演奏会は、同年9月13日。芥川也寸志や黛敏郎や松村禎三が明治村への移築から救った旧東京音楽学校の奏楽堂(日本初の西洋式音楽ホール)が、再び閉館となる直前に旧奏楽堂で行った。虫の鳴き声が聴こえる秋の暑い夜の演奏会だったが、多くの来場者があり、この分野へ興味を持つものが少なくないことを実感した。あの日は、真鍋理一郎、今井重幸、渡辺宙明、水野修孝ら作曲家も来場し、私達の活動に対して熱いエールを送ってくださった。
第1回のオーケストラ・トリプティーク演奏会では、オーケストラの名前の由来にもなった『トリプティーク』を敢えて取り上げなかった。このオーケストラが『トリプティーク』を取り上げるのはずっと先。少なくとも第3回の演奏会を行った後になるだろうと考えていたからである。プロ、アマ問わず、世界中で演奏されているだけに生半可な思いで取り上げられる曲ではない。印象深いコンサートでは、来日したワレリー・ゲルギエフが2009年のNHK音楽祭でN響を指揮して取り上げたこともあった。2015年までの絃楽オーケストラシリーズは「個展」形式ではなく、アラカルトで様々な作曲家の作品を取り上げて、これまで100年以上の歴史を持つ日本の作曲界や作曲家たちを把握して頂ければと考えてきたが、2015年のフルオーケストラによる芥川也寸志個展をきっかけに、一人の作曲家をシリーズ化していく意味を再確認して、今回の企画となった。2016年6月10日には、電子音楽、デュオ、室内オーケストラまで幅広く集めた黛敏郎個展を行った。その約1ヶ月後の本コンサートは、両輪のごとく、芥川也寸志個展となる。
芥川也寸志が絃楽オーケストラとして作曲したオリジナル作品は、『絃楽のための三楽章(トリプティーク)』『間奏曲(オペラ『暗い鏡』より)』『絃楽のための音楽 第1番』『絃楽オーケストラのための陰画』の4作である。そのうち、『絃楽のための音楽 第1番』はオーケストラ・トリプティークの第2回演奏会で取り上げていることと、その楽想をより深め、編成を大きくしたのが『絃楽オーケストラのための陰画』であることから、今回は『絃楽のための音楽 第1番』を割愛した(ライヴCD化に際してボーナストラックとして過去の音源より収録した)。この3曲だけではトータルで30分ほどしかないこともあり「編曲」を含む個展となったが、これは吹奏楽の世界などで、同族楽器によるアレンジがより一層その分野の拡がり担っていること、そして優れた音楽は編成を変えて様々な楽器で親しまれ、人口に膾炙していくことを踏まえての選曲である。映画音楽は、芥川の様々な顔の一面であろうが、この側面も知ってほしい。編曲で特筆しておきたいのはまず『24の前奏曲』。芥川也寸志のエッセンスともいうべき小品の集まりであり、もしかしたら絃楽編曲もありえたかもしれない、という楽想が凝縮されている。初期の『譚詩曲』も芥川の徹底したオスティナートの美学が反映された逸品である。『アレグロ・オスティナート』や『オスティナータ・シンフォニカ』とも比肩できる堆積オスティナートの結実がある。私は、これらが新たなレパートリーになっていけばとも考えている。
そして、今回が初演以来の演奏かもしれない『絃楽オーケストラのための陰画』は、ここで新たな芥川の再評価をと考えて選曲した。通常の芥川オスティナートが、音を繰り返し堆積させて音楽を作るのに対して、既にある音から減算してゆく、“音の消え行く様”に焦点を置いたマイナス美学があらわれているように思う。これら演目と並べて『絃楽のための三楽章(トリプティーク)』を取り上げるのは、大きな意味のあることと思う。
末筆となってしまったが、今回の演奏会に対して、あたたかく見守ってくださった芥川眞澄様、いつも大変な企画に一生懸命対応してくださるオーケストラの皆様、編曲の清道さん、指揮の水戸さん、そして関係したすべての皆様にこの場を持って深く御礼申し上げます。